Q&A

Q&A

「モデルルーム見学での留意点」

興味のあるマンションのモデルルームを見に行こうと思います。
モデルルームを見に行くときに、ぜひチェックすることは何でしょうか。

壁紙や扉の色などの確認はできます。
しかし、モデルルームを鵜呑みにするのは非常に危険です。
あくまでも販売側が営業はあくまでも販売側が営業用に用意した施設だからです。

モデルルームは、営業用の施設であるために、よく見せるための工夫がされているのが当然です。小さめの家具を使って部屋を広く見せたり、最新のデザインの家具を配置してイメージアップをはかったり、日当たりのよい位置を使用しがちです。

また、自分が購入するタイプの間取りと同じとは限らず、グレードの高い部屋をモデルルームとして採用することも多いようです。自分の購入予定のタイプと同じかどうかの確認も必要です。

 建築中のマンション内ではなく別の場所につくられるモデルルームでは、周辺の環境もわかりませんから、実際の建設予定地に様々な曜日の様々な時間帯に足を運んでみることも重要です。日当たりや騒音などの住居環境を調べることも必要です。

購入の参考にしたり、購入後入居時にモデルルームとの違いを確認するために、モデルルームの写真や動画を撮影しておくという手段もあります。


「購入時のアドバイザー」

マンションの契約をする予定ですが、一生で一番高い買い物になりそうです。チラシや販売業者の説明を鵜呑みにしてよいものか悩んでいます。わたしの立場に立って相談にのってくれる人はいないのでしょうか。

購入前に必要なマンションの知識としては、①居住後に問題が発生する要素にはどんなことがあるのか、②購入時の手続きをどうすればよいのかという2つが必要です。

①工事上の知識:マンション建築(特に改修)に詳しい建築士が適しています。

②売買契約上の知識:マンション売買に詳しい宅建主任者、弁護士や行政書士にも適任者がいます。   最近ではこの2つのサポートサービスを同時に提供できる会社もあります。

①には建物の工事上の問題点(施工精度や仕上がりはもちろん、劣化進行の可能性・耐久性)の有無や、管理組合としての運営に予測される注意点を把握することが大切です。将来、そのマンションの大規模修繕工事を設計できる建築士が適任者です。

 最近では売買契約の内容を確認し、建築士も助言やお部屋の検査をトータル的にサポートする会社が出てきています。「マンション維持管理支援・専門家ネットワーク(略称M-net)※1」「日本ホームインスペクター協会※2」という住宅を購入しようとする方へのサポート組織も2009年に立ち上がっています。

※1「マンション維持管理支援・専門家ネットワーク」とは

 マンションの維持管理を支援するため、建築士、マンション管理士、弁護士、会計士、税理士など、職能の垣根を越えた専門家ネットワークです。

 マンション維持管理支援・専門家ネットワークでは年に3回程のペースでマンション維持管理講座・公開相談会を開催しており、多くの方にご参加頂いております。

 なお、講師派遣・個別相談等の多様なご要望にもお応えします。

※2日本ホームインスペクターズ協会とは

 ホームインスペクション(住宅診断)とは住宅に精通したホームインスペクターが、第三者的な立場から、また専門家の見地から、ホームインスペクション(住宅診断)を行うものです。ホームインスペクション(住宅診断)を行うことで、住宅の劣化状態や不具合の有無、購入後にかかるメンテナンスやリフォームのコストなどについて把握しやすくなります。住宅購入前に、これらについて調べておくことは、安全で安心できる住宅購入のためには必須です。

 欧米ではすでに常識のホームインスペクション(住宅診断)は、近年、日本でも急速に根付き始め、常識となるのは時間の問題だといわれています。


「管理会社に対する資料請求について」

管理会社の会計処理がずさんで、数字にもズレがあります。
請求をした資料が出てこないこともありますが、過去の資料提出を強制することはできますか。

管理会社と管理組合が、業務委託契約を締結している場合は、通常は管理会社について報告義務を課しているはずですし、民法の委任契約の報告義務の規定(民法645条)もありますので、必要な資料は管理組合が請求してください。管理会社が応じない場合は債務不履行(契約違反)となり、損害賠償請求や契約の解除も可能です。資料提出の要求に強制力を持たせるには、マンション管理適正化法にもとづく登録取消を
活用する手段もあります。

どうしてそうなるのかという背景も見ておく必要があります。収納口座として管理会社名義の通帳や、管理組合理事長名義でも印鑑と通帳を管理会社に預けているケースがあります。管理費等の徴収方法がどのような仕組みになっているのかまで、確認しておくのが重要です。


「大規模修繕工事における居住者の協力について」

大規模修繕工事で居住者の協力が必要になるのはどのようなことですか。
その場合、協力が得られない方についてどのように対処したらよいでしょうか。

大規模修繕工事で居住者の協力が必要になるのは、ベランダの専有物(鉢植えや物置など)の移設、手すりに取り付いているアンテナの移設、鳩除けネット、給排水管の修繕などがあげられます。

ベランダは共用部分のため、鉢植えや物置などを移設してもらえないのは、管理組合としても大変困りますが、「けしからん」と迫ってもなかなかうまくいかないようです。そこで、移設先のスペース(共用庭や屋上)を準備し、高齢者など自分で動かすのが困難な方には、工事会社にお願いした場合の費用などを伝えて、協力できる条件をつくりましょう。物置などは、火災時の避難空間を阻害している場合もあり、この機会に改善することが望まれます。話し合うことが第1ですが、場合によっては、管理規約上の取り扱いも含めた対応策の検討が必要です。

給排水管は共用部分と専有部分を一体的に改修する方が技術的にもメリットが大きく、専有部分も含めた工事を総会で定めておけば実施は可能です。その場合でも区分所有者には工事を断る権利があり、工事を行わない方については、中止分の金銭を請求できるという考え方と、権利の放棄と見なす考え方があります。工法によっては、全ての協力が得られないと工事ができない場合もあります。その場合、管理組合として専有部に立ち入る工事なため、区分所有者と賃借人に「給排水管の状況」と「工事の方法」をわかりやすく説明します。その際には中長期的の観点も説明をすると良いと思います。全体にきちんと話す必要性は大多数の区分所有者が「理事会からの正確で丁寧な説明を受けて合意した」というのが前提になるからです。反対をする方にはその理由を良く聞き、代替え案も考えながら、現行案が合理的だという説明を様々な角度から話し納得してもらうよう努力をしましょう。

誰もが知っておきたい基礎知識

居住者からの協力拒否への対応を行う場合、現在の管理規約を確認することが第一歩です。また、標準管理規約には、建物の維持管理に必要な専有部分への立入りを容認しなくてはならないという定めがありますので、これをもとに説得を行うことも考えられます。それで協力が得られない場合は、権利の放棄として工事の対象外とすることが一つの方法であり、裁判で協力を強制することは難しい場合もあります。


「給水システムについて」

受水槽と高置水槽から水漏れがあります。槽を交換しようとしましたが、
最近は受水槽を使わない工法があると聞きました。
どのようなものでしょうか。

一番進んだ方式は、特例ですが、「直結直圧方式」です。

これは水道の圧力だけで、5階まで上げてしまうものです。水道本管と水圧の両方が改善されたので、できるようになりました。水道局に行くと水道本管と建物側の水道の使用の状態や引き込み管の太さを勘案した上、相談にのってくれます。現地での水圧の調査もあります。ただし特例なので、水道法に定められている最低限の状態になると5階までは実用上は無理です。そのために今までの例では、引き込み部分に「直結増圧方式」に切り替えられるように準備をしておくことが求められる場合もあるようです。ポンプも受水槽も高置水槽も不要というのは魅力で、それぞれの設備費の他に清掃料や電気代も掛からない上に、検査もメンテナンスの費用も掛かりません。

  次は「直結増圧方式」です。受水槽がなくせる方式です。受水槽を撤去すると敷地スペースが利用できるようになるので進めるのが良いと思います。引き込み管や給水主管を太くしないといけないかも知れないので、必ず構想の段階で専門家に、相談考えましょう。高置水槽を残すとそれ以降は従来の配管がそのまま使えます。高置水槽までなくすと、専有部の耐圧性能、配管材料などを含めて水道局のチェック範囲になります。

 受水槽を交換して使うのなら「受水槽加圧ポンプ」という前からあるシステムが使えます。 断水などのことを考えると水槽はあった方が良いのですが、設備費、メンテナンス費などを考えるとなくしたいと思うのが自然でしょう。

誰もが知っておきたい基礎知識

受水槽に半分水が残っていればそのマンション分なら一人1日3リットルの計算では2週間分くらいあります。

<主な給水方式>


「騒音をめぐるトラブルへの対応」

管理組合として、マンションにおける騒音問題について如何に対処すべきか、教えてください。

騒音問題の対処は、騒音の種類や原因、騒音の範囲と程度を知ることから始まります。

1)騒音の種類と原因 

マンションの騒音問題は、①生活騒音②営業騒音③外部からの騒音に大別できます。また、発生原因としては、①マンションの設計・施工に問題がある場合、②人為的な原因(フローリングに改造、ピアノの騒音、生活上のマナーや営業上の騒音、外部工事の騒音、その他)と、①②の混合に大別できます。まず、その騒音の原因を調査しましょう。

2)騒音の程度 

話し合いで解決する場合も、まず、騒音の程度を知ることが必要です。さらに裁判になるような場合は、客観的な騒音の程度(数値)の立証は必要になってきます。自治体によっては騒音測定機器を無料で貸し出しているところもあります。民間で検査測定を請け負うところもあります。騒音の程度については、公害対策基本法9条に基づく閣議決定「騒音に係る環境基準」(生活環境を保全し、人の健康に資する維持されるべき基準として、昼間50ホーン以下、朝夕45ホーン以下、夜間40ホーン以下としている)や各自治体の定める公害条例の騒音基準を参考にするといいでしょう。

3)受忍限度 

騒音問題が裁判所で争われる場合(騒音差止めの仮処分・本裁判・損害賠償請求訴訟など)、当該騒音が一般人の通常の感覚ないし感受性を基準に判断して、騒音が『受任限度』を超えているかどうかが争点となります。受忍限度を超えているかどうかは、騒音の程度、種類、存続期間、騒音の続く時間や時間帯、騒音を出している側の事情(加害行為の有用性、被害防止の努力、対策費用や対策の簡便性など)と、被害を受けている側の事情(被害の程度など)を総合的に比較考量して裁判所が判断します(東京高裁平成6年6月9日判決ほか)。


マンションの設計・施工が原因の騒音」

マンションの上下階、隣同士での生活騒音が問題となっています。マンションの広範囲で騒音問題が起きており、聞こえる騒音の程度も、通常の範囲を超えています。マンションの設計・施工に問題があるのではないかと考えていますが、対処法を教えてください。

被害の程度や範囲からみて、建物の構造上(設計施工)の問題であると疑われる場合は、管理組合として専門家に調査を依頼し、販売会社に対し補修工事や損害賠償を請求します。

1)補修・損害賠償請求

建築基準法30条、同法施行例22条は、境界壁の遮音性について規定しています。また、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)で住宅性能表示制度が設けられ、日本住宅性能表示基準(品確法2条3項、3条)が定められました。日本建築学会でも遮音性能基準を定めていますので、専門化に相談するなどして、まず自分のマンションの遮音性能に問題があるかどうかを調査し、問題が認められる場合は、分譲業者の責任に対して、補修工事や損害賠償を請求します。

話し合いで解決できないときは、分譲業者に対して、瑕疵担保責任(民法570条)や債務不履行責任(民法415条)不法行為責任(民法709条)に基づき、損害賠償(財産的損害、精神的損害)請求訴訟を起こすことになります。

2)参考判例

福岡地裁平成3年12月26日判決は、JR鹿児島本線の貨物列車の騒音事案で、防音性能の劣るマンションの売主に対する債務不履行を認めました。このケースは、モデルルームによる見本売買であり、パンフレットやセールストークで、防音性能を特に強調していたことが決め手となっています。但し、債務不履行に基づく損害賠償請求は、下落した価格相当の損害の立証がないとして棄却され、不法行為に基づく慰謝料請求のみが認められました。


ルールを守らない賃借人に対する対応」

私のマンションでは、専有部分を賃貸するケースが多く、ゴミ出しのルールを守らず、夜中に騒ぐなど、日常生活上のトラブルも生じています。専有部分の賃貸・転貸を制限することはできますか。対処法を教えてください。

区分所有権も所有権である以上、所有者が第三者に賃貸することは自由です。賃貸人が承諾している場合は、賃借人が、さらに又貸し(転貸借)することも可能です。管理規約で賃貸や転貸自体を禁止することはできません。但し、賃貸人や転借人も、管理規約に定められた使用のルールを守る義務があります。違反がはなはだしい場合は、差止めや契約の解除・専有部分の引渡し請求などの措置が認められています。

1)ルールを守らない占有者への対策

賃借人、転借人らはマンションの使用方法について、「区分所有者が管理規約又は総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う」(法46条2項)とされています。また、建物の保存に有害な行為や他の区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないことは区分所有者と同様です(法6条3項)。従って、占有者が、管理規約等に違反するなどの行為をする場合は、規約に定める対応措置をとることができます。それでも改善がない場合は、違反行為の差止め(法57条4項)や、賃貸借契約の解除ならびに引渡請求訴訟の提起が考えられます。

賃貸人(区分所有者)の協力が得られる場合は、当該賃借人の義務違反行為を是正させるように求め、それでも改善されない場合は、賃貸人の責任で賃貸借契約を解除することを検討してもらうことも必要です。

2)契約解除・引渡し請求(法60条)

区分所有法60条1項は、①賃借人などの占有者が、②他の区分所有者の共同の利益に反する行為をするか又はそのおそれがある場合、②その違反行為による共同生活上の障害が著しく、③他の方法によっては障害の除去が困難なとき、④総会の4分の3の多数数決によって、契約解除と専有部分の引渡しを求める訴訟を提起することが出来ると定めています。この場合には、占有者に対し、総会で予め弁明する機会を与えることが必要です(60条2項、58条3項)。


「駐車場をめぐる問題」

1.マンションの駐車場に、行方の分からなくなった人の自動車が放置されており、対処に困っています。

2.マンション分譲時に駐車場の分譲を受けたとする区分所有者が、管理組合に使用料を払わずにマンションの駐車場を使用しており、駐車場を使用できない区分所有者から不公平だという不満が出ています。管理組合としての対応を教えてください。

3.マンションの機械式立体駐車場のメンテナンスや修繕に費用がかかり、駐車場使用料も、近隣の駐車場に比べて安くないため利用者が減り続けています。月極めの賃貸駐車場として外部者に貸すことは可能でしょうか。また、立体駐車場を取り壊して、空き地を花壇にするは、どうしたらいいでしょうか。

1.自動車の所有者を被告とする滞納使用料金請求並びに駐車場の明渡し請求の裁判を提起し、勝訴判決を得てから、強制執行により自動車の撤去、処分をすることが必要です。

2. 分譲の際に対価を払って駐車場の分譲を受けている場合も、賃料を前払いして、管理組合から駐車場を借りている(駐車場の専用使用権を設定する賃貸借契約)と同様の法律関係と考えることができます。したがって、分譲業者に支払った駐車場分譲代金額が、それまでに使用した客観的に相当な駐車場料金総額を下回るときは、分譲を受けたとする区分所有者の承諾を得ることなく、管理規約や総会決議で正当な駐車場料金を設定して請求する(有料化を図る)ことも可能です。

3.外部の第三者に駐車場を賃貸する行為は、「共有物の管理行為」にあたり、総会の普通決議があれば可能です。管理規約で、理事会決議によるなどの特別の定めをおくこともできます。その場合、賃貸借契約期間を短期にするなどの注意も必要です。立体駐車場を取り壊して花壇にする行為は、共用物の形状・効用を著しく変更する行為にあたり、総会の特別決議が必要です。

1)放置自動車

所有者が使用料を払わないまま駐車場に放置している自動車であっても、管理組合が勝手に処分することは許されません(自力救済の禁止)。所有者に対して、滞納している使用料金と自動車の明け渡しを求める裁判を提起して勝訴判決に基づき強制執行をすることが必要です。所有者の現住所が不明の場合は、公示送達という手続きにより裁判を提起することができます。例えばナンバープレートが取り外されているなどして、車の所有者自体が不明の場合は、警察に相談してください。

2)いわゆる分譲駐車場問題

分譲業者が、マンション購入者から分譲代金を取得して共用部分である駐車場を「分譲」する商売が横行し、後日トラブルを発生させています。最高裁は、分譲駐車場の法的性質につき、管理組合との専用使用権設定契約に基づく債権的な権利と同質の権利にすぎないことを前提に、「専有使用権は、区分所有者全員の共有に属するマンション敷地の使用に関する権利であるから、・・・管理組合は、規約又は集会決議をもって、使用料を増額することができる。」とし、使用料の増額が、法31条後段の「特別の影響を及ぼすとき」にあたるかどうかについて、「使用料の増額は一般的には専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に『特別の影響』を及ぼすものではないというべきである。」(最高裁平成10年10月30日シャルマンコーポ博多事件判決)としました。 

3)駐車場の賃貸・変更

管理組合は、「建物ならびにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体」(区分所有法3条)と規定されていますので、管理組合の活動は、共用部分の管理行為に限られます。管理行為には、①保存行為(現状を維持する行為:法18条1項但書)、②共用部分の形状又は効用を著しく変更する管理行為(法17条1項)、③①②を除く狭義の管理行為(法17条1項)があります。駐車場を外部者に貸し出す行為は、狭義の管理行為に当たると解されており総会の普通決議で可能です。但し、契約期間が長期であったり、解約が困難な約定があるなど、「処分行為」と同視されるような契約は、区分所有者全員の合意がない限り許されません。

ただし、駐車場を賃貸する場合、管理組合が収受する賃料は課税対象となり、共益費とは区分して申告する必要があるため、その分税務処理が煩雑になります。これを会計士に依頼する場合にはその費用もかかることになるため、賃貸する部分が相応の数でないと赤字になるケースもあるので慎重な判断が必要です。

機械式立体駐車場を取り壊して花壇にする行為は、共用部分の形状又は効用を著しく変更する管理行為にあたり、総会の特別決議が必要です。逆に敷地の空き地部分や花壇を駐車場にするときも、総会の特別決議か必要です。


「管理費の負担割合に差を設けることはできるか」

等価交換方式のマンションで、元地主が1階の店舗部分を所有し、2階以上が住居部分として分譲されています。原始規約で、元地主の管理費が住居部分とくらべて不当に低廉に定められているため、規約改正により改めたいと考えています。専有部分の用途(店舗・住居)の違いにより、管理費の負担割合に差を設けることは可能でしょうか。

区分所有法19条は、「各共有者は、規約に別段の定めがない限り、その持分に応じて、共有部分の負担に任じ、共有部分から生ずる利益を収受する。」と定めており、管理費の負担割合は、原則として持分割合=専有部分の面積割合によります。但し、規約で別段の定めをすることができます。修繕積立金についても同様に考えられています。管理費等の負担の差異がどこまで許容されるかは、当該差異が合理的と評価できるか否か、という観点から総合判断せざるを得ず、許容範囲を数値化することは困難です。しかし、法19条の趣旨及び規約の内容について区分所有者間の利害の衡平を図らなければならないとする法30条3項からすれば、例えば専有部分の面積割合による負担とされているにもかかわらず、他と比較して2倍以上の格差がある場合には無効となるものと考えられます。専有部分の用途別に管理費等に差を設けることは、合理的な理由があれば2倍以上の格差も有効とした判例があります。

住居部分と店舗部分では、たとえば、不特定多数の人が出入りするなど、共用部分や敷地の利用状況や態様が異なるなどの合理的な理由がある場合には、管理費の負担割合に差を設けることも一般に許容されています(東京地方裁判所昭和58年5月30日判決は、店舗部分について、住居部分の2倍以上の管理費を定めた規約を有効としています)。

どのくらいの差までが有効となるかはケースによります。ただし使用頻度の立証となるとなかなか困難な面もあり、判例の傾向としては使用頻度の差は、管理費に差を設ける合理的理由とはならないとする傾向がありそうです(東京高裁昭和59年11月29日判決:判例時報1139号44頁)。

また、法人と個人で、管理費に差を設ける総会決議の有効性が争われた事案では、負担能力の差は、合理的な理由とならないとして、法人と個人1.72対1、1.65対1の差異を設けた総会決議を無効としています(東京地裁平成2年7月24日判決:判例時報1382号83頁)。

平成14年の法改正で新設された区分所有法30条3項は、「規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは付属施設・・・・につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」としていますので、今後、事例の集積が待たれるところです。


「管理費の時効」

管理費修繕積立金を長期にわたり滞納している人がいます。管理費などは何年で時効となるのでしょうか。また、時効にしない対策を教えてください。

管理費並びに大規模修繕積立金は、民法169条の定期金債権として5年で消滅時効が完成するというのが、判例・実務です。

1)最高裁平成16年4月23日判決

債権は、10年で時効により消滅するのが原則です(民法167条)が、法律が特別に短期の消滅時効を定める場合があります。最高裁平成16年4月23日判決は、「管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権にあたる」として、マンションの管理費と大規模修繕積立金は、地代や家賃のように基本権に基づく支分権としての債権であるとして、5年の短期消滅時効に係ることを明らかにしました。批判もありますが、5年で時効にかかることを前提に、今後は滞納管理費修繕積立金を管理することが必要となります。

2)時効の中断

上記のとおり、管理費等は5年間そのまま放置すると時効により消滅してしまいます。滞納が生じた場合には、速やかに滞納者に対して催促をするなどの措置をとり、長期間滞納が続くことをなるべく避けなければなりません。消滅時効の進行を止めるには、①請求②差押え、仮差押え、仮処分③承認が必要です(これらの事由を時効中断事由といいます。民法147条)。①の請求としては、支払督促の申立、訴訟提起、調停申立、破産や再生、更生手続きへの参加があります。単に請求書を送っただけの場合(内容証明によるときも含む)は、6ヶ月以内に裁判提起その他の強力な時効中断措置をとらないと中断の効力は生じません。

滞納者自らが、管理費の滞納を承認したときは、時効の中断が生じます。後の争いを避けるために、念書や管理費滞納承認書など書面にしておくことが望ましいでしょう。

所在不明のまま管理費を滞納している区分所有者に対しては、公示送達という手続きにより裁判を提起します。欠席裁判により支払いを命じる判決が確定すれば、時効期間はそのときから10年間となります(民法157条2項、174条の2)。


「違反者に対する弁護士費用の請求」

管理組合が区分所有者に対して裁判を行う場合、要した弁護士費用を相手方に負担させることはできますか。

標準管理規約(第67条3項、4項)は、区分所有者が規約に違反し、又は敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は理事会の決議を経て訴訟を提起することができ、その場合、訴訟の相手方に弁護士費用を違約金として請求することができる旨の記述がされています。

管理費を滞納した場合に、弁護士費用を請求できることを管理規約に定めておくことは、滞納者に支払いを促す2次的効果もあり、有用といえます。但し、管理規約で定めていても、金額の如何にかかわらず負担させることができるというわけでもありません。裁判で弁護士費用の負担が争われたときは、違約金としておのずから相当とされる額にとどまることもあり得ます。

管理規約に定めがない場合に、総会決議で滞納者に弁護士費用の支払い義務を負わせる決議したとしても、その決議は、「特定の組合員に対して、その意に反して、一方的に、義務なき負担を課し、あるいは、他の組合員に比して不公正な負担を課すもの」であって、決議は無効とした判決例があります(東京高裁平成7年6月14日 判例タイムズ895号139頁)ので注意してください。

尚、上記の判決も、不法行為に基づく損害賠償として弁護士費用を請求する余地があることを認めています。滞納者が、管理費を支払わず、やむなく管理組合が訴訟を提起せざるを得なくなったことを不法行為と考えて、この不法行為と因果関係のある弁護士費用としては3万円が相当として弁護士費用の支払いを命じた判決例もあります(東京地裁平成4年3月16日判決)。

いずれにしても、管理費滞納者その他、共同の利益に反する行為を行った者に対して、必要な弁護士費用を負担させることを管理規約で明確に定めておくことは有用です。